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平均滞在1時間以上!鹿児島・霧島の大人気おみやげ店「きりん商店」
鹿児島県の温泉地・霧島に、お客さんが平均1時間以上も滞在するという、大人気のおみやげ店があります。次から次へとお客さんが訪れ、リピーターも非常に多く、今や霧島を代表するスポットになっている「きりん商店」。お客さんを惹きつける秘密と魅力に迫ります。
平均滞在1時間以上のおみやげ店
鹿児島空港からバスで20分、温泉地として有名な鹿児島県・霧島(きりしま)エリア。車でしか行けない山あいの中に、次から次へと人が訪れる大人気おみやげ店があります。
驚くべきは、店に来たお客さんの滞在時間。なんとほとんどの人が、1時間以上もそのお店にいるというのです。なぜ、そこまで人を惹きつけるのでしょうか? 今や霧島を代表するスポットになっているおみやげ店「きりん商店」の魅力をご紹介しましょう。
「お茶、飲みませんか?」
車を走らせ、角を少し曲がったところに佇む「きりん商店」。落ち着いた雰囲気の店の中から、賑やかなお客さんたちの声が聞こえます。
中に入ると目の前に並ぶのは、手作りのぬくもりあふれる商品の数々。どんなものが並んでいるのだろう、と思いながら見ていると、背の高い男性がお客さんに何やら話しかけています。
「カボス(柑橘類の一種)はいいのが採れ始めてるんですよ、いま」
「このニンニクを、豚と一緒に炒めたら最高ですね」
「その財布は、近くの方に作ってもらった手作りなんです。いい色でしょう?」
そんな様子を眺めていると、その男性、店長の杉川明寛(すぎかわ・あきひろ)さんに話しかけられました。
「お茶、飲みませんか? さっき淹れたばかりなんですよ」
お客さんにお茶の解説をする杉川さん(写真中央)
店内の長椅子に座ってお茶を飲んでいると、色々なものが出されてきます。
「よかったらこの漬物、食べてください。うちで作ったんです」
いつの間にか、椅子はお客さんでいっぱいになりました。「どちらから来たんですか?」「鹿児島は初めて?」。知らない人同士が、お茶を手に盛り上がっています。
店に入るやいなや、まるで親戚の家に来たような気持ちに。そう、ここ「きりん商店」は、日本一居心地がいいおみやげ店。気がつくと、時間があっという間に経ってしまう魔法の場所なのです。
いつまでもいたくなる空間
居心地のよさは、店内の随所にも現れています。こちらは小さな畳敷きの部屋。柔らかな風を感じながら、座ってゆっくり、お茶を飲むことができます。
外には、子ども向けの釣り堀まで。「子どもたちにさまざまな体験ができる場を作りたい」という思いから作っているそう。
霧島のおみやげを作りたい
お店を切り盛りするのは、杉川明寛(すぎかわ・あきひろ)さんと、妻の真弓(まゆみ)さん。
2人とも鹿児島生まれで、真弓さんは霧島の出身。夫婦はもともと福岡で仕事をしていましたが、真弓さんは実家に帰るたびに、不満に感じていたことがありました。
「霧島のおみやげがない」
福岡に地元・霧島のおみやげを持って行きたいと思っても、そもそもおみやげがありません。霧島は温泉地として有名ですが、おみやげが充実しているとはいえませんでした。
「霧島のおみやげと言ったら『温泉まんじゅう』(※1)ぐらい。でもあるとき、霧島で売られていた温泉まんじゅうの生産地を見ると、別の地名が書かれてあった。それが悔しかったんです。霧島には、いいものがたくさんあるのに!と」(真弓さん)
※1:温泉まんじゅう……まんじゅうとは、生地の中にあんこが入った和菓子。温泉まんじゅうは、厳密にいえば温泉の蒸気で蒸したまんじゅうのことだが、広義には温泉地で売られているまんじゅうのことをいう。
同時に、真弓さんは、地元・霧島の食べ物の素晴らしさにあらためて気づきました。
例えば、地元のシイタケ(きのこの一種)をたくさん使った「めんつゆ」(写真右)。料理の味付けや蕎麦(そば)につけて食べるなど、さまざまな料理に使える調味料です。
「地元に住むおばあちゃんたちがずっと作り続けているめんつゆです。私は子どもの頃から当たり前に使っていたのですが、久しぶりに実家に帰ってきて食べたら、すごく新鮮で、おいしく感じたんです」(真弓さん)
霧島は豊かな自然に囲まれ、清らかな水がその山あいに流れています。そんな中で、新鮮でおいしい野菜や食べ物が育まれてきました。
地元では普通。でも、本当においしい。そんな品々を、作っている人の温かさとともに伝えたい。
杉川さん夫妻の本業は、デザイナーとイラストレーターです。自分たちは作り手ではないけれど、霧島のものがいかに素晴らしいかを伝えることはできる。そう思い、霧島でお店を開きました。
つけられた「きりん」という店名は、「霧島」の「よかもん」(※2)を縮めた言葉です。
※2:よかもん……鹿児島の方言で「いいもの」という意味。
杉川さん夫妻は、地元の人々と新たに関係を築きながら、時には商品開発も持ちかけながら、その商品がもっとも輝くデザインを作り上げ、少しずつ「霧島のよかもん」を店内に並べていきました。
そんなぬくもりある商品を一部、ご紹介しましょう。
霧島の「よかもん」たち
桜島の箸置き
こちらはかわいらしい箸置き。この山は、鹿児島のシンボル、桜島(さくらじま)です。
Picture courtesy of K.P.V.B
桜島は鹿児島の中心部にある活火山で、ほとんど常に噴煙を上げています。噴煙の多い日は「ああ、今日は桜島が元気だね」と話すほど、鹿児島の人々にとって火山である桜島は身近な存在。
お箸がなくても、インテリアとして飾れそうですね。税抜700円。
日本の粋を感じられる財布
手作り感あふれる財布は、「道中財布(どうちゅうざいふ)」と言われる財布。江戸時代、人々が旅をするときに携えていた財布です。
布で出来ており、紐で結んで持ち歩くスタイル。現在ではお祭りなどに持っていくことが多く、浴衣(ゆかた)や着物と合わせると、かっこいいですよ。もちろん、日常用としても使えます。税抜1,600円〜。
ローカルゲームを楽しめる名刺入れ
筆者の一押しは、この名刺入れ。ただの名刺入れではありません。「ナンコ」という、鹿児島のローカルゲームができる名刺入れなのです。
「ナンコ」のルールはとてもシンプル。手の中の木の棒が、何本入っているかを当てるだけです。
さて、何個入っているでしょうか?
答えは、3つ! 酒の席でナンコをするときは、負けた方が、焼酎を1杯飲みます。芋焼酎が有名な、鹿児島ならではの遊びですね。名刺入れは、ナンコ付きで税抜3,500円。
店内で焼いてくれるパン
ハムチーズ、キャラメル、あんこ、抹茶味のあんこ……さまざまな中身のパンたちは、購入すれば店内の火鉢で焼いてくれます。店に入ると、パンの焼けるいい香りが漂っていることも。
こちらのパンは、きりん商店から徒歩5分ほどの、素材と手作業にこだわるパン屋さんが作ったもの。霧島の食材を使った安心の、そしておいしいパンです。税抜160円〜。
深い味わいのお茶も
店内で飲めるお茶も、実際に販売している商品。気になったものは購入できます。
実はスタッフの真弓さんの実家は、製茶工場。店内に置かれているお茶は、すべて真弓さんの実家で作られた有機栽培のお茶なのです。
冬と夏の寒暖差が大きい霧島でとれるのは、香りが高く、うまみ、甘みが強いお茶。「いっぷく抹茶」は、水と氷を入れるだけで手軽に冷やし抹茶が楽しめるのでオススメですよ。税抜200円。
お茶を飲んでいたら、またお客さんが集まってきたようです。
「茶いっぺ」で思い出を作る
鹿児島には、「茶いっぺ(ちゃいっぺ)」という文化があります。「茶いっぺ」とは「お茶を一杯」という意味。家に来た人にお茶やお菓子を出して、「ゆっくりしてください」ともてなす習慣が、鹿児島の一部の地域では根付いています。
真弓さんのお母さんは製茶工場を営みながら、家に来る人たちにお茶や、時にはご飯まで出してもてなしていたそうです。
「お客さんにご飯まで出すお母さんを見て、子どもの頃は恥ずかしかった。でも今は、かっこいいと思います。さすがに私たちはご飯は作れませんが、お母さんのように店に来るお客さんをもてなしたい」(真弓さん)
そんなきりん商店には、取材中も次々とお客さんが訪れ、店内は常に会話と笑い声であふれていました。明寛さんはそんな光景を見ながら語ります。
自分で作ったツリーハウスに登る明寛さん
「静かでオシャレなお店もいいですが、僕たちはノイズがある店、やかましい店にしたいんです。そしてそんな店で、皆さんに体験をしてほしい」
明寛さんは、体験したことは思い出になって忘れない、と言います。
「“癒される”よりも“賑やか”がいい。少しの高揚感が得られて、思い出が生まれる。そんな店にしたいと思っています」
店内に並べられた品々には、それぞれに個性があり、ぬくもりと思いがこめられています。
それらを手に取りながら、霧島のお茶を飲みながら、お客さん同士の会話は弾みます。きりん商店には心地よい“ノイズ”が生まれ、楽しげな雰囲気に誘われるように、また新しいお客さんが店を訪れます。
そして各々が、たくさんのおみやげとともに、忘れられない思い出を持ち帰っていくのです。
思い出を買うだけではなく、「思い出を作る」ことのできるおみやげ店、きりん商店。鹿児島に行った際は、ぜひ立ち寄ってみてください。ただし、時間にはじゅうぶんの余裕を持って……!
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In cooperation with きりん商店
MATCHA Editer.